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ヒントは机の端にある

ウイルスの影響で、自分の四月は正常に始まらなかった。夜、コーヒーをすすりながらソファの上で本を読んでいると、これは現状必要なもののはずなのに、ふと不安に襲われる。起きていても大した成果は残せないが、諦めてベッドに入っても唾を飲み込むだけで時間を浪費するだろう。何かを始めなければならない春は自動的に内省を促す。肘掛けにもたげた頭の上を滑る春の空気は、少しだけ冷たい。

 

アニメ「かくしごと」のEDソングが、大瀧詠一の「君は天然色」だった。

くちびるつんと尖らせて 何かたくらむ表情は

別れの気配を ポケットに匿していたから

机の端の ポラロイド写真に話しかけていたら

過ぎ去った過去 しゃくだけど今より眩しい

想い出はモノクローム。もしかしたら知っている他者の中には、自分と過ごすことで淘汰されてしまった可能性があったかもしれない。あのときこう言わなければ、あるいは。そのように可能性が淘汰され、収束していくプロセスのことを、青春と呼ぶのかもしれない。現在の春の焦りは、相対的に広がっていた過去の可能性に呼応して大きくなる。春の孤独はリモートワークだけが生み出すわけではない。

今日の憂鬱に悩んだ時は、テキストエディタを開くといい。過去の写真はこれ以上増やせないが、文章はいくらでも書くことができる。さあ、書け。書くんだよ。春の夜の冷たさに負けてはならない。ヒントは机の端にある。